[始まりの世界]

「…ねえ、起きなさいよ」
まどろみを邪魔するこの声には、聞き覚えがある。

「…起きろ!セルク!」
仰向けの人間に、踵落としを食らわせようとする、この理不尽には、心当たりがある。
「危なっ!」
すんでの所で躱した。

「なんだ、起きてるんじゃない」
「…いや、寝てたけど」
「寝ながら避けるなんて、どこの達人よ」
んー、嘘じゃないんだけど…。

「長老が呼んでるわ。はやく村に戻りましょ」
「急がなきゃ駄目?」
「急がなきゃ駄目」

風薫る初夏の“風見丘”は、昼寝に最適だ。
ここでもう少し、夢の続きを見ていたかったんだけど…。
そう、あの…

……

「…あれ?」
「なによ?」
「どんな夢だったっけ…?」
「わたしが知るか」
どんな夢を見たか忘れてしまった。

珍しいことではない。…ないけれど。
忘れてはいけない夢だった気がする。

「さ、行きましょ。セルク」
ルッツァが手を差し伸べた。
僕は、その手を握って
「うん、行こう」と返事した。


風見丘に、穏やかな風が吹いた。

夢の名残を、緑風は洗い流さない。





『夢見の丘』   
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[評議世界・10]

夢見る旅人は、決して辿り着けぬ地…。

カルボモンドで出来た神経が、無限の演算要求を送り続ける。
女神を象った有機の像が、無限の演算結果を弾き出し続ける。
そこは異質な空間だった。

障気で満たされた幽鬼ども。
彼らに言わせれば、そこは“糸尊き場所”である。

ふと、闇が蠢いた。
「さあ、始めよう」
紡がれた言葉。
紡がれた糸。

そして無数の紐は、震え出す…。
世界の理を形作る…。


「青い空…緑風の大地…
あの日の丘…あの日の少年…」

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[幸せの記憶・9]

グレンは、再びお城へと向かっていった。
「また帰ってくるよ。再来年にでも」
見送るティナの素振りは、見る人が見れば、恋する乙女のそれだったかもしれない。
…僕には分からないけど。

「これでまた、しばらくは両手に花ね。良かったじゃない」
「え、花がどこにだって?」
無言で殴られた。

ティナが苦笑いした。
ルッツァも笑った。
僕は照れ笑いした。

幸せの日々は、ここにあった。

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[評議世界・9]

そこは異質な空間だった。

世界が全て、色のない色に、塗りつぶされて。
上下はなく、左右もなく、距離も時間も、何もない。

…強いて喩えるなら、そこは…
「“神様”の世界…」
声は、発することができた。

すると、それに応えるかのように…目の前に、像が生まれた。

ドクドクと…脈打つ、女神の像。

「…お前が…“神様”?」
像は答えない。


「神などいない」
頭上から、闇が零れ、それが喋った。
「神とは、私であり、彼であり、彼女だ」
…さっきと言ってることが違う。

「責務を果たせし者よ」
「…」
「何処を求める?」


…いずこをもとめる…。



…求める…。


コイツに言ってやりたいことは、掻き消えた。
今はともかく、伝えなくちゃいけない。

…疾うの昔に、決まってること。
あの時から、ずっと…。

「あの日、あの時、あの場所…」

そう…

「風見丘だ」


闇は消えた。
像も消えた。

「果たそう」
異質の声が聞こえてくる。
「それを求めるならば」

世界が振動を始めた。
「果たそう」

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[夢の終わりの世界・6]

「…ごめんね」
「…どうして?」
「僕が、因果律を乱したから…」
「…どうして?」
「旅人…だから…」
「…」
「…」

「…返してよ」
「…」
「返してよッ!私の…私のお父さんを!お母さんを!」
「…」
「友達を返してッ!村のみんなを返してッ!」
「…」
「ねぇ…返してよ…っ…」


「…求めるんだ」
「…えっ…?」
「求めれば…きっと…」


終 わ り だ


「いつの日か…」

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[夢の終わりの世界・5]

「…おしまい」

旅譚をおとぎ話に落とし込んで、語りたいことは、全て語ったつもりだ。
どうして語りたくなったか…さて、どうしてだろう。
もしかしたら、記憶の中の旅人さんを、なぞりたくなったのかも知れない。

パチッ

薪が爆ぜる音。

穏やかな夜、じっと深く…深く…。


「…ねぇ、どうしちゃったの…?」
さっきの少女の、震える声。
「ねぇ、ねぇ…ッ!どうして…どうして…ッ!」
…尋常じゃない恐がり方だ。

「…どうしたの?」
立ち上がって、少女の元へ歩いて、…途中で、違和感に気付いた。

「みんな…返事、してよぉ…ッ!」
焚き火を囲んでいた人々は、みんな、……人でなくなっていた。
人にそっくりの…木偶人形。
まるで、最初からそうであったかのように…整然と、平然と、それらは座っている。

「俺は、因果律を乱す。無自覚に、無慈悲に、この世界の…」

恐ろしい、言葉が、頭に弾けた。


それはまるで、夢の中の出来事だった。

…そう、夢は、いつだって理不尽だ。

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[夢の終わりの世界・4]

それはまるで、夢の中の出来事だった。

満天の星空の下。人々が焚き火を囲んでいた。
僕は独り言をつぶやくように、おとぎ話を語る。
それは、空飛ぶ鳥人の世界であったり、黒煙満ちる王国の世界であったり、緑溢れる美しい世界であったりした。

人々は、僕のおとぎ話を、ただ静かに聞いていた。


穏やかな、夜だった。

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[夢の終わりの世界・3]

歓迎会が始まったのは、すっかり陽が落ちてからのことだった。

質素でも心づくしの料理と、取って置きだという果実酒が、惜しみなく振る舞われて。
老若男女入り交じっての、微笑ましい歌と踊りが、目と耳を楽しませて。

「あ、あの、その…私と」
大人達に後押しされながら、少女がおずおずと手を取って。
「私、私と…お、踊ってくださ…」
聞こえないよ、と、ヤジが飛ぶ。

みんながみんな、笑顔だった。
少女もまた、笑顔だった。
僕は…いや、僕もまた、きっと、笑顔だった。

でも、ひょっとすれば…泣き顔だった。


…人と触れ合うのは、久しぶりだった。
永い、永い…本当に永い間、僕はひとりぼっちだった。ひとりぼっちを“求めた”から。

「…ありがとう」
声になったか、わからない。

それでも、ありがとう。
ありがとう。

たとえ、全てが“作り物”だとしても…。
僕は、この日を忘れない…。


…ありがとう。

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[夢の終わりの世界・2]

体の自由を取り戻せたのは、村の広場へ来てからだった。

…だけど、分かる。感覚的に。
この広場からは出られない、って…。

それでも…試そう。広場の端へ向かい…
右足を、前へ。

………

…踏み出せない。

「どうなさいました?」
「…いえ、なんでもないです」
後ろから不意に声をかけたおばさんは、こんな返答で納得したのか、立ち去っていった。
おばさんが戻った広場の中央は、僕の歓迎会の準備で忙しそうだ。

「…」
見えない壁をにらむ。
こんなことで穴が開くなら苦労しないけど。

森に囲まれた、小さな村。
想起するのは僕の村。

…何十年経っても、忘れやしないさ。
ここは、僕の村じゃない。

…それでも、それでも…、…それでも。

奇妙な…偽りの帰郷感が、心を蝕むようだった。

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[夢の終わりの世界・1]

気がつけば、森の中を歩いていた。

足は勝手に歩を進め、目をつぶっても、危うげ無く。
まるで運ばれていた…僕の体に。
もちろん、こんなのは、初めてのことだ。

「…ッ!」
声が出ない。
いや、より正しくは…“喋ってはいけない”。
僕の体は、僕以外の主人を見つけたように。
僕の命令を聞けば、後で恐ろしい目に遭うかのように。

…とてつもなく理不尽だ。


…歩く、歩く、いつまでも。
誰かの命令を遂げるまで。


メェー…

…この音は…?

森の向こうから、何かの音が聞こえる。
足は迷わず音の方へ。

森を抜けて、視界が開けた。

音は…、…動物の声だった。

木の柵に囲われて、白い毛を持つ動物が、何匹も。
「おやっ、どちらさまですか?」
声は動物から発せられ…てはいなかった。
遠くから、バケツを持った男がやって来る。

「見慣れぬ服装ですが…旅のお方でしょうか?」
「ああ」
僕が、勝手に喋った。

「一晩泊めて欲しい」
「宿にお困りですか。ええ、構いませんよ」
スラスラと、淀みなく。

「しかし珍しい来客だ。我が村に旅のお方なんて。村長へ伝えねば。付いてきて下さい」
「ああ」
なし崩し的に、一泊、厄介になるようだ。

…何のつもりだよ、“神様”?

念を送るつもりで問いかける。
返答は、無かった。

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「ボクと魔王」
「惑星のさみだれ」
「イリヤの空、UFOの夏」

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