ろうにんぎょう 最終話

ある日の朝に、来客が。
その人は看守で、私を釈放した。

着替えて連れられ、建物の外。
一人の男性、微笑み見せて立っていた。
懐かしいその顔は、故郷の人形館の若い館長。

羊皮紙の上で踊る、その文章。
「今の君なら、僕の人形館に歓迎する」
青い鳥が知らせてくれたと、併せて書かれ、驚いて。

けれど、いまの私は…。


ごめんなさい。
そう言う私を見る館長は、不思議そうに。
「どうしてだい」
と一筆。

ここを出してくれたこと、感謝するわ。
その気持ちに応えたい。
けれど。
けれど。
…けれど。

けれど、私は、世界に触れたい。


「わかったよ」
認めてくれた館長は、嬉しげに。
「君が帰る場所は、いつでもあるからね」

ありがとう。
館長と、青い鳥と、世界に。
ありがとう。




いまの私は浪人業。
世界を巡る、ろうにんぎょう。
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ろうにんぎょう 第5話

ある日の朝に、来客が。
青い色をした、珍しい鳥。
耳からたくさんの血を流し、とても苦しそう。

私の耳とおそろいね。
これも何かの縁だわ、と。
服の切れ端を一ちぎり、青い鳥さんの手当てをした。

すると鳥さん、口を開け。
「ありがとう。このご恩はきっと忘れません」
私の耳はいかれてるけど、その声は何故か、よく聞こえたの。


いいえ、どういたしまして、と。
微笑みながら、そう返したわ。

すると、からっぽの体に、熱が宿って。
そしたら、世界中が、愛おしく思えた。


そう言えば、笑ったのって、何年ぶりかしら…?

ろうにんぎょう 第4話

そして私は牢人形。
罪は無実で、汚名を着て。

他の奴隷が落として壊した、大事な荷物。
その人は人間で、私は蝋人形で。
人間は蝋人形を犯人にした。

弁明する気も起きなかった。
もう、疲れたわ…。


牢屋は一人、底冷えの。
屠殺場のすぐ側の、特等席よ。
両足を鎖につながれて、いよいよここが私の墓場。

周りの牢屋には誰もいない。
強いて言うなら、仲間はいたわ、ネズミとか。
幾日経っても看守は来ない、忘れ去られた牢屋。
仲間のネズミは私の身体をかじり始めていた。


やがて私は聾人形。
鐘の音も、風の音も、届かない。

ろうにんぎょう 第3話

最初の月は紡績工場。
糸を紡ぎ、編み、服に仕立てる。
「この下手くそ!」
怒号と鞭が、私の左手を崩した。

次の月は採石場。
岩を切って、運んで、積む。
「きびきび動け!」
怒号と鞭が、私の肩を崩した。

その次の月は家畜小屋。
餌やり、掃除、糞の始末。
「臭いんだよ奴隷め!」
怒号と鞭が、私の胸を崩した。


蝋の身体ははがれ落ちて、中の空洞がぽっかり見える。
真紅の血流はなく、骨の代わりには冷たい鉄線。
でもよく見たら、鉄線すら入ってなかった。
空洞の真ん中に線を通して何になるの。
私は、正真正銘、からっぽだわ。


そうよ私は労人形。
働くのに、血も肉も骨も必要ないわ。

ろうにんぎょう 第2話

月日が流れるのは早いもの。
老いぼれ館長、ぽっくり逝って、人形館も閉館に。

お客も誰も来なくなって、ようやく静かに過ごせるわ。
そう思ったのも束の間のこと。
今度は若い館長がやって来た。

「人形館を経営するのが僕の夢だった」
新館長はそう言って、館内を綺麗にしていった。

これでまた、みんなにじろじろ見られる日が来るのね。
ああ、いやだわ。美しいって罪なのね。

そう思ったのも束の間のこと。
目の前に若い館長がやって来て、私に告げた。
「君は醜くて、僕の人形館には相応しくないね」


なんてひどい!私の美貌が分からないなんて!
確かに人に見られるのは嫌だけど、綺麗な人形館でなら頑張ってあげようかなと思っていたのに。
あなたは目暗か、もしくはよっぽどの愚か者だわ!


怒った私を見て、若い館長、すっと鏡を差し出した。
そこには本当に醜い顔。
しわにまみれて、黒ずんで。
そして何より、意地悪な目つき。

「君には奴隷がお似合いだ」

どこからか現れた奴隷商が、私を連れて、どこかへと行く。
馬車に揺られて幾週間。私は連れられ、どこへ行く。

「どこでもいいだろう、お前は奴隷なんだから」と奴隷商。
そうね、どこでもいいわ。


どうせ私は老人形。
どこで朽ちても、かまわない。

ろうにんぎょう 第1話

私はろうにんぎょう。
名前はない。あるはずがない。

だって、そうでしょう?
所詮、私は蝋人形。
真紅の血流はなく、骨の代わりには冷たい鉄線。

ひときわ寂れた人形館で、今日もお客に向けてポーズをするだけの生活。
そんな人生…じゃなくて、人形生。



ある日、一人の少女が迷子になった。
古くて汚い癖に、広さだけは一流の、この人形館。
「お母さんとはぐれたの」と訴える。
わんわん、わんわんと大声で。泣きじゃくりながら。

ああ、うるさいわね。「館内では静粛に」って張り紙が読めないの?
私たち人形の身にもなって欲しいわ。
せまいショウケースに閉じ込められて、じろじろ見られる日々の、私たちの身よ。
これ以上イライラさせないでちょうだい。

そんなこんなと考えてたら、老いぼれ館長と母親がやって来た。
「ごめんね迷子にさせちゃって。さ、一緒に帰りましょ」
泣き止んだ少女を引き連れて、優しい母親は帰っていった。

それを見届けた館長が言う。
「どうして何もしてあげなかったのだ」

何度目かしら、その質問。
私はいつも、なにも答えない。
そしていつも、こう思った。


だって私は蝋人形。
人の心なんて、持ってないもの。
プロフィール

アール3乗

Author:アール3乗





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「ボクと魔王」
「惑星のさみだれ」
「イリヤの空、UFOの夏」

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煙草
おま国・おま値
根性論

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